友人がまたもや美術本を出版。
よくもまぁ、これだけネタがあるもんだ。
ビジネス企画力の高さを物語ります。
著者紹介より
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タイトル:バーン=ジョーンズの世界
著者:平松洋
出版社:KADOKAWA
19世紀イギリスにおいてラファエル前派の系譜に連なる最後の巨匠、バーン=ジョーンズ。ロマンチックな作風で知られるその作品をオールカラーで多数収録した、ビジュアル・ブックの決定版。
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本書はちょうど一年前に出した『ラファエル前派の世界』(KADOKAWA)の姉妹版ともいえるものです。
19世紀中葉のイギリスで、ロイヤル・アカデミーの学生だったロセッティ、ミレイ、ハントたちが結成したのが「ラファエル前派兄弟団」でした。今春の森ビルでの展覧会を見た方も多いのではないでしょうか。彼らは、アカデミーが称揚したラファエロを頂点としたルネサンス美術に反旗を翻し、それ以前の美術、つまり、中世的な美術を範としたのです。しかし、その活動は意外と短く、4、5年で解体してしまいます。その衣鉢を継ぐようにロセッティに私淑したのがバーン=ジョーンズでした。彼は、ロセッティの影響下で、ラファエル前派の第2世代や後期ラファエル前派といわれる画家たちの中心的な存在となっていきます。
しかし、バーン=ジョーンズはそれにとどまらない画家なのです。彼がオックスフォード大の受験で隣に座っていたのが、生涯の友となるウィリアム・モリスでした。彼との交友によって、後のモリス商会やケルムスコットプレスで人物デザインや挿絵を手がけていきます。さらには、ラスキンに勧められたイタリア旅行の影響から盛期ルネサンスやマニエリスムの影響を受け、友人のスウィンバーンやソロモン、そして、ムーアやホイッスラーの影響で、審美主義的な作品を描くようにもなります。一方で、あの世紀末美術のビアズリーの才能を見抜き、基礎的な訓練が必要だとして夜学のアート・スクールへ通うよう勧めたのも彼でした。
ラファエル前派から、アーツ・アンド・クラフツ運動や審美主義運動まで、19世紀後半のイギリス美術の結節点にいたのがバーン=ジョーンズなのです。ところが、日本では、彼の画業を総合的にとらえた書籍がほとんどなく、数少ない書籍においても、彼が参照したとされている画家の名前や作品名が、ほとんど間違っているのです。これは、紹介者が20世紀の美術研究の成果に眼を通していない証拠でお寒い限りなのですが、実は、海外においてもあまり事情が変わらないようです。私の経験からすると1冊美術書を作ると必ず海外のストック・フォトの逆版を1、2点見つけ、それを指摘すると嘘のようにネット上の逆版がなくなっていくのですが、今回は、ある有名な海外美術館の展覧会英文カタログでさえ、逆反や間違いがいくつもあり、海外ストック・フォトの逆版にいたっては過去最多でした。
19世紀以降、美術界を席巻したリアリズムとモダニズムの進展で、こうした「物語画」は否定され、最近やっとラファエル前派あたりまで評価を回復してきたのですが、まだまだ本格的な再評価と研究は端緒についたばかりと言えるのかもしれません。本書は、できるだけ最新の美術研究を踏まえ、画家に与えた影響関係を基軸に総合的に画業を紹介したつもりです。とは言ってもビジュアル・ブックであり、書ききれない部分が多かったのですが、読者の皆様には絵画をじっくりと鑑賞していただける作りとなっています。
本年は、ラファエル前派展から審美主義展、そして、現在開催中のホイッスラー展に至るまで、19世紀イギリス美術に関連する展覧会が目白押しでしたが、その中にあって、全てに関係していた画家がバーン=ジョーンズであり、その多彩な画業の世界をお楽しみいただければ幸いです。また、広くご紹介いただければ幸甚です。
平松洋
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